わたしたちのまち暮らし山暮らし

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デザインの力で
まちと人を
つないでいく。

高須賀 文子さん(デザイナー / 株式会社トリッキー代表取締役)

八王子の個性あふれるお店を紹介するフリーペーパーの発行や、まちの人々に自然とつながりが生まれるイベントの企画。八王子のまちに「たのしさ」というスパイスをふりかけるようなお仕事を続けているデザイン会社「TRICKY(トリッキー)」代表の高須賀さんにお話をうかがいました。

高須賀 文子さん

高須賀 文子 (たかすか あやこ)

高須賀 文子 (たかすか あやこ)

八王子市内にあるデザイン会社、株式会社トリッキー代表取締役。さまざまな企画やデザインワークで、八王子の魅力的な企業、店舗、人物の情報を世の中に発信し続けている。

まちの情報発信を、お手伝いしたい。

八王子のまちに関わりを持ち始めたのはいつからですか?

大学時代からです。市内にある東京造形大に通っていたんですが、キャンパスが八王子の中心部から少し離れたところにあるので、実は大学4年間で八王子の街に出てきたのは片手で数えるくらいしかありませんでした(笑)。

八王子でデザイン活動を始めることになったきっかけを教えてください。

大学4年生のときの授業で、八王子を良くするための企画を八王子市長さんに向けてプレゼンテーションするという課題が出たのがきっかけでした。それで八王子のまちを調べようと歩き回ったら、素敵な場所やお店がたくさんあることに気付いたんです。「私、こんなに良いまちだということを知らないまま大学4年間をすごしてきちゃったんだな」と。
ただ、その一方で、「なぜ私はこんなに八王子のことを知らなかったんだろう」という角度から考え直してみると、「八王子の側からうまく情報発信ができていないんじゃないだろうか」という仮説が浮かびました。せっかくいいお店があっても、ショップカードやウェブ、チラシがなかったり、お店側からのPR活動が機能していないように感じました。そういった面でデザインを活用して何かお手伝いできないか、と思ったことがきっかけでした。

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その後、トリッキーを結成することになります。

大学を卒業して、ご縁があり、そのまま4月にアトリエを構えたんですけど、最初はデザイン事務所という枠組みではありませんでした。単に「アトリエができたから、ものづくりを続けたい人はどうぞ集まって」という感じのゆるい集まりで。それでもありがたいことに、まちの人たちからはデザインのご依頼をいただくことができました。あるとき、アトリエの呼び鈴がアポイントもないのに鳴ったので誰だろうと思ったら保健所の人だったこともありました。「喫茶店のマスターに聞いたんですけど、チラシ作ってください」と(笑)。

トリッキーという場所を作ったことも含めて、自分から声をかけて人が集まる場を作るのが好きなほうですか?

はい。学生の頃から飲み会やバーベキューを企画するのが好きでした。

つまり「この指とまれ」的なことが…

好きなんだと思います(笑)。

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勝手に好きになって、勝手に紹介する。

お仕事をしていく中で気付いた八王子の魅力を教えてください。

八王子が「宿場町」だったことが大きいのかもしれないと考えることがあります。江戸時代、街道沿いの宿場町として、江戸に出入りする人たちを迎えては送り出していた。つまり、歴史的に人を迎える文化が根付いている場所なんじゃないかと。だから、私みたいな“よそ者”でも温かく受け入れてくれたのかなと。
トリッキーでは八王子の素敵なお店を毎号1店舗だけ紹介する『idol(アイドル)』というフリーペーパーを平成22年から作ってきたんですけど、これも最初に感じた「八王子にはいいお店がたくさんあるのにあまり知られていない。しかも地元の人にこそ知られていない」から、もっと魅力を伝えたいという思いからスタートしました。このフリーペーパーの取材でも、八王子のお店の人たちは全然不審がらずに「いいよいいよ」という感じで協力してくれる方が多かったです。やっぱり、外からの人を受け入れてくれる土壌があるのかなと。

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素敵なフリーペーパーですね。表紙を見ているだけでもワクワクしてきます。

ありがとうございます。「コレクションしたくなるフリーペーパーにしたいね」って始めたんです。自費出版ということもあって、私たちが好きなお店を勝手に紹介させていただくフリーペーパーです(笑)。例えば、一見普通の時計屋さんなんですけど、中に入ると博物館のように素晴らしいアンティークの時計が並んでいる時計屋さん。船の甲板に使われていた木材や、新潟の古民家に使われていた曲がり木など、店舗を作る材料集めだけで5年以上もかけた喫茶店。こうした、ものすごいこだわりを持つお店を紹介するのが楽しくて仕方なかったです。私の出産との兼ね合いもあって、平成28年7月発行の通算50号を節目に一旦休刊という形にさせてもらったんですが、「このフリーペーパーを見てお店に通うようになりました」とか、「お店の常連になってくれた人がいるよ」とか、そういう声をいただけたことが、作り続けていく中でいちばんうれしかったです。

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あたらしい住まいの形を提案する。

今お住まいのご自宅は、高須賀さんご自身で内装をリノベーションしたそうですが。

はい、基本的には私と夫の二人で改装しました。
最初は八王子の不動産屋さんから、「新しい入居者が見つからないまま放置されている物件が多くて困っている」という相談を受けたんです。物件のオーナーさんたちの事情としては、「リノベーションできるのであればしたいけれど、あまり費用はかけられない」というものでした。そこで「DIY不動産」という企画をご提案させていただいたんです。「入居者が自己負担すれば部屋を好きなように改装してかまわない」という仕組みです。これならオーナーさんはお金をかけなくて済むし、入居者は海外の物件のように壁にペンキを塗ったりしながら好きなように暮らすことができます。
そうして関わるうちに今私たちが暮らしている物件が出てきて、「住んでみませんか?」と声をかけていただいたんです。この物件は5年ほどで建て替えのために解体される予定だったので誰も住まずに放置されていたんですけど、最初に中を見せてもらったときにはゴミだらけでした(笑)。まずゴミの片付けから始めて、それから床に木を張ったり、壁に漆喰を塗ったりしながら、内装を作り上げていきました。内装のコンセプトは、最初は白を基調にした「フレンチモロッコ」だったんですけど、二階の天井を剥がしてみたら木の梁の雰囲気が意外とカッコよくて、途中から「よし、山小屋風にしよう!」と方向転換しました(笑)。

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まちと人を、つないでいく。

こうしてお話を伺っていくと、高須賀さんのお仕事には「まちと人をつなぐ」というテーマがあるような気がします。

やっぱり好きなんだと思います。例えば、平成23年から八王子駅南口の飲食店に協力していただいて、お店の中でミュージシャンのライブやアーティストの作品展示をやってもらうというイベントを企画させていただきました。このイベントには、おもしろいお店の存在をアピールすると同時に、出演するアーティストもたくさんの人の目に触れる機会を得られるという相乗効果があります。
平成28年には八王子駅北口・南口エリアの合同イベントとして「はちおうじハロウィン」という名前で開催したところ、予想を大幅に上回る約140店舗のみなさんに参加していただいて、うれしい悲鳴でした。そうやって誰かと誰かをつないだ結果として、「あの人と新しくこういうことを始めたよ」という声が聞けたりするのはありがたいことですし、新しいコミュニティのようなものが生まれてくるのもうれしいです。

では最後に、これからやってみたいことを教えてください。

町工場とクリエイターがコラボレーションし、八王子の中心で色々なモノゴトを生み出していきたいと、八王子の産業を新たな視点で発信する「COB project(コブ・プロジェクト)※」という企画を始めました。
八王子は宿場町だったという話をしましたが、もう一つ、織物のまちとしても栄えた歴史があるんです。ところが、織物生産のような職人仕事は時代の移り変わりの中でだんだんと規模が縮小していきました。それでもまだ八王子には織物職人さんや、精密部品加工のエンジニアさんなど、ピカイチの技術を持っている方が数多くいらっしゃいます。そういった方たちの技術を次の時代に残していくために、「こういう素晴らしい産業や技術があるんだよ」ということを多くの人に伝えていきたいです。

※Center of birthの略。