生産者に、きいてみた。

八王子の伝統を
未来へ紡ぐ
「現代の名工」

澤井織物工場

八王子を中心とした多摩地域で、生糸や真綿のつむぎ糸を原材料に、独自の技術で織り上げられてきた伝統織物「多摩織」。その伝統工芸士であり、「現代の名工」と称される澤井伸さんに、八王子の伝統を未来へと紡ぎ続ける想いを伺いました。

  1. 「産地の空気まで織り込む」多摩織の魅力 

現在「多摩織」と呼ばれている八王子の織物。その名称が誕生したのは1980年です。通商産業省(現・経済産業省)が、この地域の織物を伝統工芸品に指定するにあたり、総称として名付けました。

「それまでは、機屋(はたや=織物職人)それぞれが独自の織物をつくっていて、まとめて呼ぶ名前はありませんでした。伝統工芸品として認定するには総称が必要だということで、『多摩織』という名称が生まれたのです」

現在、多摩織として認定されているのは「お召織」「紬織」「風通織」「変わり綴織」「捩り織」の5種類。市内には現在も5つの工場が稼働しています。その一つが、曾祖父の代から八王子で織物業を営む澤井織物工場です。 

「多摩織は、先染めの糸を使い、手間ひまをかけて織り上げる織物です。光の当たり方で表情が変わる深い色合いと、しなやかな風合いが特徴です。八王子の水や気候、そして職人の感性が合わさって生まれる“土地の織物”だと思っています」


かつては着物地として広く流通していたが、時代の変化とともに需要は減少しました。しかし澤井さんは、今こそ伝統の価値を伝える意義があると語ります。 

「着物だけでなく、ストールやネクタイ、インテリア小物など、現代の暮らしに取り入れやすい形で提案しています。伝統は守るだけではなく、使ってもらってこそ生き続けるものです多摩織は、先染めの糸を使い、手間ひまをかけて織り上げる織物です」

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伝統を守るだけではなく、進化させる

澤井さんが家業に入ったのは25歳の頃。デザイン学校を卒業後、別の会社で経験を積み、父のもとで本格的に織物の道へ入りました。

「ちょうど本格的に織物を始めたのがバブルの終わり頃で、着物産業が斜陽化し始めたのもちょうど同じ時期でした。何か新しいことを始めないと生き残れないので、本職の多摩織に加えて、いろいろな“枝”を広げることを考えました」


転機となったのは、「お召織」の技法を生かしたストールです。楊柳(ようりゅう)と呼ばれる波状の凹凸が入った生地が注目を集め、アパレルメーカーからの注文が増加。そこから、マフラーやランチョンマットなど、新たな製品展開へと広がっていきました。 

「決まったことしかできないと、仕事は先細りになります。枝を広げながら、幹である伝統を守る。それが伝統工芸が生き残る道だと思っています」


近年では、ウェアラブルデバイスに関する世界的IT企業のプロジェクトに技術提供を行うなど、異分野との連携も進めています。また、国内外のファッションデザイナーのテキスタイル制作にも携わり、活動の幅を広げています。 

「試作品づくりは年中続けています。失敗も多いですが、挑戦しなければ新しいものは生まれません」


長年受け継がれてきた技術の基礎を変えることなく、新しい素材や発想を掛け合わせることで新たな価値を生み出しています。 

「新しいものができても、それが世の中に受け入れられて定番にならなければ商売にはなりません。いかにオリジナル(定番)となるものをつくれるかが勝負ですね」

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若い世代へ、そして未来へ

担い手不足は、多くの伝統産業に共通する課題です。そうした中で、澤井織物工場には多摩美術大学の卒業生をはじめとする若い世代が加わり、現場で技術を学びながらものづくりに携わっています。伝統を未来へつなぐ取り組みは、すでに始まっています。 

「まずは一度、多摩織を実際に見てほしいです」


その言葉どおり、SNSや展示会を通じた発信にも積極的です。工房見学や織り体験の機会も設け、糸や布に実際に触れてもらう場をつくっています。 

「自分の手で触れてもらうことで、まちへの愛着も深まると思います」


かつて八王子は“織物のまち”として全国に名を知られていました。その歴史と文化を次の世代へ伝えることは、地域の未来につながります。桑都テラスでの展示や地域イベント、学校での体験授業など、工芸と地域を結び直す取り組みも広がっています。 

「若い世代が多摩織に触れる機会が増えたことは大きな希望です。未来の担い手が生まれるきっかけになりますから」


一方で、生産体制も変化しています。かつては工程ごとに全国へ分散していた分業体制は縮小し、現在では一つの工場で多くの工程を担う体制へと変化しつつあります。 

「ここで全部完結させていく必要があります。昔は分業で全国に工程が散らばっていましたが、今はそれが難しくなっています。一か所でつくる体制にして、その中で若い人に技術を伝えていかなければなりません」


技術を守ることと、人を育てること。その両立こそが、伝統を未来へとつなぐ鍵になります。 

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八王子の未来を織り上げる

一反の布を織るには、気の遠くなるような時間と集中力が必要です。その積み重ねが、まちの歴史を未来へと紡いでいきます。

「このまちは自然も文化も人も温かいまちです。多摩織は、その魅力を形にした存在だと思っています。ふるさと納税を通じて、八王子の名とともに多摩織が広がれば、職人としてこれ以上うれしいことはありません」

シャトル織機でゆっくりと高密度に織り上げられる生地は、ふっくらとした凹凸と温かみのある風合いが特徴です。耐久性にも優れ、長く愛用できます。 

「この製品の豊かな風合いは、写真や文章だけでは伝えきれません。ぜひ八王子のイベントや体験の場で、実際に触れて感じてほしいです」
 

シルクウールの軽やかボーダーストール(外部リンク)」。ふるさと納税の返礼品として届く一枚の織物。その奥には、長い歴史と職人の情熱、そして八王子の物語も織り込まれています。

「ふるさと納税を通じて八王子を応援してくださる方に、まちの歴史や文化を感じてもらえたらうれしいです。箱を開けた瞬間に、八王子の空気まで伝わるような製品でありたいですね 」
 

返礼品をきっかけに「八王子に行ってみたい」「多摩織をもっと知りたい」と思ってもらうこと。それこそが、地域と人を結ぶ織物の力です。


今回お話を聞いたのは
有限会社澤井織物工場 代表取締役社長 多摩織 伝統工芸士
                    澤井 伸 さん


(取材日:2026年1月)

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