第9回都市景観セミナー

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第9回 都市景観セミナーを開催しました

第9回の都市景観セミナーは、3月25日(土曜日)クリエイトホールの視聴覚室で行いました。晴天に恵まれた土曜日、27名の方々にご参加いただきました。ありがとうございました。

日時:平成18年3月25日(土曜日) 午後2時から午後4時
場所:クリエイトホール 視聴覚室

今回の講師は、多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授の田口敦子さんです。田口さんは、さまざまな自治体で屋外広告物の審議会の委員などをされており、まちづくりに関わっている立場から、まちの景観に大きな影響を与える屋外広告物のあり方についてお話をいただきました。

講演の様子

講演は、「広告物とは何か。」「景観とどう調和させていくのか。」を2つのテーマとして進められていきました。

まず、「広告物にはいろいろな問題点もあるが、人間が生活していく上では必要なものだ」とのお話から始まりました。

日本の広告物のルーツは西暦700年頃にまでさかのぼり、大宝律令(701年)の中に広告物について記述があるとのこと。「凡ソ市ハ肆毎ニ標ヲ立テ行名ヲ題セ」(=市場ではお店ごとに看板を立て、営業内容を記すこと)と記されていたと伝えられています。看板を立て、企業名や商品名を明らかにすることによって、商業活動に対する責任を持つ。どんなハイテク看板であれ、この役割が原点であり、屋外広告物は必然的なもの、必要なものであるとのことです。

続いて、日本における広告物の歴史について、お話しいただきました。

江戸時代、通りごとに高さなど建物の建て方が規制されてまちなみが整い、そこに屋外広告物がまちの豊かな表情を作る要素として景観に寄与していたとのこと。

江戸時代末期の日本橋と江戸時代初期のまちなみ

当時の看板は非常に優れた工芸技術のもとに作られていました。江戸時代に入り世の中から戦がなくなると、職を失った城郭建築の職人が看板製作に携わるようになり、その技術は非常に高度なものでした。また、浮世絵の影響を受け、造形的にも世界のトップレベルにあったとのこと。粋(イキ)や洒落(シャレ)の要素がふんだんに織り交ぜられ、まちを行き交う人々は広告物を楽しんでいました。

看板

では、そんな優れた歴史的背景を持つ広告物が、現代ではなぜ景観上の視覚的なノイズになってしまったのでしょうか。

その原因は建物のデザインの変化にあるのではないでしょうか。元来、日本家屋は道路側に軒(のき)が突き出し、軒にあわせて広告物の形態が発達してきました。一方、ヨーロッパでは壁や窓が道路に面しており、壁に合わせて発達してきました。日本では明治時代中期以降、ヨーロッパ風の建物が増えて軒が無くなってしまったにもかかわらず、江戸時代からの看板の形態を残してきたために、看板と建物が調和しない景観の乱雑さが際立ってきた。これが原因ではないかと指摘されました。

建物と看板の形態の関係

18世紀のロンドンのまちなみ

壁が道路に面するロンドンのまちなみでは、広告物の高さを揃えていますね。

このようなことを踏まえ、「どうすれば屋外広告物を、広告物本来の目的を果たしながら、周辺景観と調和させることができるのか。」を後半のテーマとして進みました。
現在の都市景観を考えるとき、屋外広告物には3つの問題点があるとのことです。

  1. 流通の問題
    まちでよく見られる光景で、化粧品店や喫茶店などの店先にメーカーの看板がごちゃごちゃといくつもついています。これは、生産者から問屋を経由して小売店に入るまでの流通経路が原因とのこと。流通の過程でメーカーの看板が小売店に提供され、小売店の経営者はこれらメーカーの看板を複数取り付けていきます。店舗への複数設置が過剰設置の問題を引き起こし、まちなみの視覚的ノイズとなるひとつの原因になります。そのうえ、商店の名称が取扱い商品の看板に埋もれてしまい、商店名が視認できなくなる問題も引き起こしています。

小売店に氾濫する看板

  1. チェーン店の問題
    企業は、看板のデザインに多額の資金を投入します。チェーン店ではそれぞれの企業に規定があり、加盟店はそのデザイン(コーポレートアイデンティティ、CI)を守らなくてはなりません。日本中どこへ行っても同じ光景となってしまう原因のひとつになっています。また、ファーストフードや物販のチェーン店では、店舗ファサード全体のデザインを統一することで効果を作り出すことが目指されています。多地点展開のチェーン店は景観への影響が大きく、まちの歴史や風土を無視した景観を形成する点で問題になりがちです。
  2. 照明広告の問題
    照明広告が登場し、技術の発達につれてアニメーション広告が登場しました。外国ではあまり見かけない光景で、1950年代には日本の観光資源となっていました。アニメーション広告は、後のテレビコマーシャルへと繋がっていくとのことです。

屋外広告物のデザインを考える際に重要なことは、周辺との調和です。 景観形成では「地」と「図」の関係が非常に重要です。つまり、デザインの対象物(広告物など)を「図」と考え、その背景を「地」と考える。それをしっかりやらずに広告物そのものだけを考えて作るので、景観上は乱雑なものになってしまう。これをやらない限り、広告物はずっと批判に晒されることになります。

また、景観を形成するときの考え方として公共性の問題も重要です。 道路や歩道などは「公」の空間。ここには屋外広告物の許可基準があります。一方、お店や家の中は「私」の空間です。そして、これらの間に「公」と「私」の中間領域がある。商店のファサードや、店舗の前面、庭などがこれにあたり、ここに置かれる屋外広告物が問題になります。半分「公」で半分「私」の空間ですから、公共性の高いデザイン対象物だと考えなくてはいけないとのことです。

公と私の中間領域

また、景観との調和に配慮した広告物のデザインの要点として次の4つをあげていただきました。

  1. 設置場所と位置
    建物デザインの調和と、ヒューマンスケールでの視認の効果を高める。建物のあちこちに看板をつけると混乱するから設置場所、位置を決めてしまう。集合看板の設置や、人間の身の丈に合った低層部に看板を集め、上層部は禁止するなどの方法です。

集合看板の活用

  1. 環境色彩に組み込む
    広告物として伝える機能を果たしつつ、周辺環境との色彩の調和を図り、環境色彩を整える。企業のカラーを認めながら、色面の大きさや彩度を制限していく考え方です。「赤は一切ダメ」ではなく、「赤は使って結構ですが、彩度を落としてください、面積は○○までにしてください。」とやる方法です。企業にはイメージカラーがあるので、色を一切制限してしまうと結果的に実効性が無くなってしまいます。有効なのは企業カラーを尊重し、彩度の問題、面積の問題としてとらえることです。

企業カラーの彩度制限

「地の色」に応じた企業カラーの使い分け

見慣れたファーストフード店の看板。スイスのチューリッヒは下町の学生街で、ターゲットの客層は原宿と似ています。でも、チューリッヒでは赤を使わない。ヨーロッパのまちは明確に主張できる「地の色」、「まちの色」を持っています。

  1. 造形看板のシンボル性を活用する
    造形看板、ピクトグラム。端的に言葉で表現しようとすると、伝わらない。言語的なバリアがあったり煩雑になったりと、表現上汚くなってしまいます。情報量を少なくしシンプルに形で表現することによってまちを美しくする方法です。

床屋の看板は世界共通のピクトグラム

  1. 公共的施設への広告貼付
    バス停や変圧器などにポスターを貼り付け、有効な機能を持たせてしまう考え方です。広告収入が維持管理費等を賄う費用となります。屋外広告のあり方として、広告物を景色の中の異物としないで一つの機能を持たせる。屋外広告物と景観の融合、助け合いという考え方です。この手法はデザイナーにとってもうれしいとのことです。

公共的施設への広告貼り付け

また、最近の問題点として、映像メディア広告の増加を指摘されました。これから先、大変になるのはこのメディアの扱い。まちの中に映像が出てきています。今は楽しい、面白いが、どんどん増えて来ると、問題も増えるのではないかとのこと。

最後に、歴史的な景観づくりへの広告物の活用についてもお話しいただきました。

最近、日本各地で歴史的な景観作りが行われています。そのとき、屋外広告物は歴史的景観、まちの演出や効果を非常に高めてくれる。そういった活用をしたらどうか、とのご提案をいただきました。

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